架空送電線に雪が着くと、雪の重みによってさまざまな事故が起きますので、その事故の種類と対策を解説していきます。
この記事の目次
着氷雪の種類
着氷と着雪はそれぞれ次のような意味です。
- 着氷・・・大気中にある水分が過冷却されてその水滴が電線に衝突して凍結・発達したもの
- 着雪・・・水分を含んだ雪が水の表面張力の作用で電線に付着して発達するもの
着氷
電線の表面に水滴が衝突し、それが過冷却されて氷が付着していく着氷には次のような特徴があります。
- 0℃以下で発生する。(特に0〜−10℃での発生がもっとも多い)
- 風速が多いほど着氷量も多い
着雪
雪が電線の表面に付着してだんだんと太くなっていく着雪には次のような特徴があります。
- 氷点下の時に降る雪は、水分をあまり含まず乾いているため電線に付着しないため着雪とならない。
- 気温0℃付近(0〜+2℃程度)の降雪時は雪片の一部が溶けて湿雪となっているため水の表面張力の作用で電線に付着する。
着雪の発達は次の図に示すようにある程度大きく固まった雪が風の影響で回転していくことで発達していきます。
着氷雪による事故
着氷雪によってさまざまな事故が発生します。主な事故としては次のものです。
- 支持物の倒壊
- 電線の張力切れ
- ギャロッピング
- サブスパン振動
- スリートジャンプ
それでは順番に説明していきます。
支持物の倒壊
架空送電線の主要な鉄塔の倒壊をすることがありますが、これを引き起こすのは着氷ではなく着雪です。
特に、着雪した電線が強風にさられると発生します。
電線の張力切れ
電線に着氷雪があると電線の張力は通常時の数倍大きくなり、その張力が電線の破断張力を超えると電線破断にいたり大事故になります。
また、張力切れによって鉄塔にかかる張力のバランスが崩れ鉄塔が倒壊する二次災害につながることもあります。
ギャロッピング
ギャロッピングとは、馬が全速力でかけている様子を表す「動名詞」です。ギャロッピングを起こしている電線が次の絵のようにあたかも全速力でかけている馬のように振動していたことからその名がついた電線の振動です。
振動が起こる原因は次のようになります。
- 電線の表面に、電線の断面にかんして非対称な形で氷雪が付着する
- 付着した氷雪が肥大化
- 微風振動と同様にして電線の風下側に比較的規模の大きいカルマン渦が発生
- カルマン渦によって電線の鉛直方向に上下交互の周期的な交番力が加わる
ギャロッピングが起きやすい電線に非対称な着氷雪が生じる導体には次の特徴があります。
- スペーサがついているため電線が回転できない被導体方式や多導体方式
- 電線断面積の大きい電線路
断面積の大きい電線の場合、大型・長径間であるため次のような振動になる。
- 振動の周波数0.2〜0.5Hz程度
- 振動の最大全振幅10m以上
この振動のため次のようなことが起きやすくなります。
- 径間での相間短絡が発生しやすくなり、一度再閉路しても再度相間短絡を起こしやすい。
- 電線の過大張力による素線切れおよび断線の発生
- スペーサーの損傷およびがいし金具の疲労による機械的強度の低下
サブスパン振動
複合体や多導体の一相内のスペーサーとスペーサーの間隔をサブスパンといいます。
この振動は着氷雪による非対称電線断面積の風下にできるカルマン渦の上下交互の交番圧力とサブスパン内の電線の固有振動数が共振して発生します。
実測よれば、サブスパン振動は次のような値となります。
振動周波数:1〜2[Hz]
全振幅:10〜50[cm]
サブスパン振動とギャロッピングは発生原理がほぼ同じため、互いの振動数が一致することがあります。これが発生すると次のようなことが起きます。
- スペーサーの電線支持物と電線の間で生じる表面損傷およびスペーサーの機械的強度の低下
- 同一相電線の衝突による電線荒れ
- 他の振動を誘発する要因となる
ストリートジャンプ
電線に付着していた着氷雪が落ちる際の反動で起こる振動をストリートジャンプといいます。先に説明した4つの現象とは違い、減衰振動であるため持続性はありません(数秒~数十秒)。
しかし、跳躍が大きい場合は、相間短絡の可能性が出てくるため対策が必要です。
着氷雪による事故防止対策
着氷雪で発生する事故を防ぐための対策を説明していきます。
現場で除氷雪作業
着氷雪が外形数十[cm]以上に達したときは、人が現地に行き、絶縁棒やロープでたたいて着氷雪を直接落とす方法を取ることがあります。
しかし、これには、膨大な費用が掛かったり、感電などの危険もあることから実際には次に説明する方法で対処することが多いです。
支持物の強化
これは、単純に支持物を強化して、着氷雪があっても壊れないようにする方法です。
電気設備技術基準の解釈では、着氷雪地域における設計条件として次に示すような値を標準として設備の強化を図っています。
- 着氷雪厚さ:6 [mm]
- 比重:0.9
- 風圧:490 [Pa/m2]
- 風圧28 [m/s]
しかし、設置場所の着氷雪実績、支持物の重要度などによってさらに設計基準を厳しくすることもあります。
小型サイズ電線の太線化、高抗張力電線の採用
電線が細いと着氷雪の重みにより、電線が切れてしまうことがあるため、細い電線は太くして強度を上げる方法があります。
また、電線が引っ張られても切れないように張力に強い電線を採用することも方法の一つです。
離着雪電線・難着雪リングの採用
架空電線への着雪を軽減する方法として、次のことが筒状に雪が発達していくのを防ぐ上で重要になります。
- 着雪が電線の周囲を回転することを防ぐ。
- 径間長の長い電線自身が着雪と一緒に回転するのを防ぐ。
これを防ぐために次の方法があります。
- 難着雪リング…高い湿雪の場合に、着雪の電線のより方向に滑って回転することを防止する。
- ダンパウエイト…電線自身が回転することを防ぐ。
通電による着雪融解
電線に電流が流れると熱が発生します(ジュール熱)。この熱を利用して着雪を融解する方法が北海道の一部地域で用いられています。
防振装置の採用
振動を防止するために装置を取り付ける方法もあります。防振装置としては次のようなものがあります。
フリーセンタクランプ
次の絵のようなフリーセンタクランプを用いることで、電線の振動に応じてシーソー運動することで、電線の振動を徐々に減らす効果があります。
アーマロッド
先に説明したフリーセンタクランプ部など支持点の電線を補強して、損傷を防止するために用いるむち状の細い棒のことを総称してアーマロッドといいます。
電線の補強と同時に振動エネルギーの吸収も行うことが可能です。
相間スペーサの取り付け、オフセットの採用
ストリートジャンプ、ギャロッピングなどによって電線同士が接触し起こる短絡事故を防止するため次の方法があります。
相間スペーサ
電線上下方向に動いても、電線同時が一定の距離を保てるように付けるスペーサーです。
形状としては、次の写真のようになっています。
引用:日本カタン株式会社HP
URL:http://www.nipponkatan.co.jp/service/products/polymer.html
オフセット
オフセットとは次の図のように電線の上中下で電線が重ならないように鉄塔の腕金の長さを変えることをいいます。
これにより、電線が鉛直方向へ上下しても互いに接触することがないため相間短絡を防ぐことができます。
さいごに
今回は架空送電線路の着氷雪による事故と対策について説明しました。
雪が降る我が国では着氷雪による電線の事故を防ぐためにさまざまな対策が施されてきました。電験にもよく出題される範囲であるため勉強しておくとよいでしょう。
参考文献
これだけは知っておきたい 電気技術者の基礎知識 、電気書院